むかし 西の広島では、山村組の山村辰夫と 打越会の打越信夫が覇を競い 街を二分して来たが、その後 紆余曲折して広島ヤクザが大同団結して、山村辰夫を初代とする共政会が発足した。

 

　平成に入って姫路では 俺と三代目山健組内二代目村正会々長・小山顕治(72歳)とが、姫路の街を二分して来た。

　

　昭和56年7月に田岡一雄三代目組長が死んで 竹中正久が三代目山口組の若頭に就いてからは、村正会を除き ほとんど姫路の街は 竹中組一色の街になった。

　云わば 村正会は、竹中組の喉元に突き刺さった骨のような存在だった。

 

　それ以前は 姫路の街はヤクザが多く、各組が入り乱れ 群雄割拠していた。

 

　さて この小山だが、山健組が四代目に代替わりしてから舎弟に直った男だ。

　この男は巷間云われているように 悪い面ばかりではなかった。

 

　良い面も話しておかなければなるまい。

　ただ この小山は ヤクザではなく、根っからの商売人だった。

 

　しかし他の親方と違い 当初は若い者を喰い者にせず、又 五代目山口組が発足してから 山口組本家の風紀委員として中野会と共に 山健組の代表として村正会だけが、山口組本家に来ていた。

 

　中野会は ひとつの組に任せず、若頭以下 舎弟頭 本部長の三役を始め、各直参の幹部が自ら風紀委員に就いた。

　もちろん俺も中野会から本家に入っていた。

 

　そう云う面で云えば、二代目村正会の者は 皆 真面目によく山口組総本部に仕えた。

 

　だから村正会は、山口組が定例会を開く毎月5日には「本家」へ入らなければならず、その分人数も要り 随分苦労したと思う。

 

　この二代目村正会は 先代・村田正一からの良い若い衆が沢山居り、一時は山健組の中でも人材の宝庫と云われたこともあるぐらいの組織だった。

 

　俺が思うに 村正会が伸びたのは、若い者頭だった福原辰広と小山顕治の性格が 水と油のように正反対だったからだ。

　それをお互いが承知で、会長と若頭で 組織を運営して行った事に意味があると思う。

 

　片方の福原辰広は 豪放磊落にして 性格は繊細で思いやりがあり、何よりも苦労人である。

　だから俺は 福原辰広という男が好きで、俺が「義竜会」を結成した時、一番最初に会長代行に引っ張り掛けた事もあるのだが、これは福原辰広本人に態(てい)よく断られた。

 

　本人は、この頃すでに 小山とは「水と油」の如く 合わなかったが、ヤクザの筋道を通して小山の舎弟盃を受けたのである。

 

　・・・ここで小山顕治の話しに戻る。

　

　俺が堅気になってから 事務所兼自宅の明渡し請求裁判も結審になり、痛み分けのような判決が下りた。

　俺が若し、そのまま入居するのであれば 改装するので家賃を上げる。

 

　出るのであれば、1500万円ぐらいの金を支払うと云うのである。

 

　俺はすでに堅気になっていたので、無理して事務所を借りておく必要もなく、又 住まいにも未練はなかった。

　そこで金を貰って出る事にした。

 

　出てから 今住んでいる坂元町の家を買って、リフォームしたのである。

 

　神の計らいとは、こういう粋なことをする事もある。

 

　お陰で俺は、還暦近くになって 借金もせず今の50坪足らずで築60年余りだが、旅館の跡だった長屋風の家を買えた・・・

 

　こう考えれば人間の運等 どこに転がっているか分からず、聞く所によれば、小山顕治は山健組を引退させられ、嫁や子供とも別れ、若い者には借金をしたまま地元には居れず、今は寂しい思いをしているそうだ。

 

　何よりも 村正会の三代目を継いだ男とも上手く行って居らず、これは因果応報というものだろう。

　　 

　一世を風靡た男でも、ヤクザの末路は 所詮儚いものだ。

 

　俺は若い者の為に 泥を被る事が出来たから、何とか今日まで生き延びて来れたと思っている。

 

　人の為に被る泥は 洗えば綺麗になるのを、俺は知っていたからだ。